インタビュー / エッセイ

2017-09-01

ダイバーシティニュース連載企画「九州大学で活躍する女性研究者」(第2回)
玉田 薫(専門:表面科学、ナノサイエンス)
(日時:2017年7月13日(木)午前  場所:九州大学 先導物質化学研究所)

 男女共同参画推進室では、3か月ごとに発行しているダイバーシティニュースの企画として九州大学で活躍している女性研究者を紹介するインタビューの連載を行っています。
 第2回はナノバイオテクノロジーをキーワードに、分子及びナノ粒子の自己組織化による新規機能性材料の創出とバイオセンシング応用に関する研究を行っておられる玉田薫先生です。企業や海外で得た経験などについてお話を伺いました。ダイバーシティニュースの紙面では概要のみご紹介していますが、ここでは全体のインタビューを掲載します。


――先生が研究されているナノサイエンスの魅力について教えてください。

ナノサイエンスは、化学や物理といった既存の学問領域ではくくりきれない境界領域と呼ばれる分野です。すでにさまざまな研究結果が出ている学問よりも、教科書や従うべき決まりがない学問に魅力を感じます。他の人と違ったことがしたいので、同じ分野の研究者が周りにいなくとも不安に思ったことはないし、自分は「誰もいなくてよかった」と考えるタイプです。前例がないところで自分の目を頼りに、技術・知識を積み上げていきます。そう簡単に新しい「発見」があるわけではないですが、それでも予想外のことが起きないかと思って常に研究をしています。それが許される分野でもあり、世界的な競争が激しい分野でもあるのが、おもしろいところです。

境界領域の研究者人口は日本の大学では海外に比べて少なくて、これから増やさなければいけない分野といわれています。研究分野を途中で変えると立ち上げに時間を要しますので、一つの分野に長くいる研究者に比べて論文の数は増えにくく、また論文を投稿しても査読者になかなか内容を理解してもらえないなど苦労もありますが、だからこそおもしろいと思っています。




――境界領域というのも1つの分野として成り立っているのでしょうか。
学問分野というのは、便宜上区切って、分類して名前をつけたものに過ぎません。化学や物理にしても、さらには文系と理系という区分についてもそうだと思っています。その隙間に誰も手をつけていない分野が残っていたりする。それが境界領域です。従来の“縦割りの学問”では手の届きづらかった分野とも言えます。日本では境界領域の研究が他国に比べて遅れていましたが、最近やっと注目を集め始めてきています。


九州大学が取り組む共創学部は、専門を問わずに学生を集めることで、バウンダリー(境界線)を持たない研究者に育てていこうとしており、その発想にはとても共感しています。例えばドイツでは、以前から博士課程において、第一専門、第二専門と2つの専門を学びます。


まったく違う2つの分野を専門とすることで、博士として、専門の垣根を超えた広い視野を身につけることが目的です。私自身もそういう研究環境で育ってきましたので、共創学部の取り組みに大きな共感と期待を抱いています。


――先生は企業でも研究をやってこられて、今は九州大学で教える立場でもいらっしゃいます。研究と教育ということについて、どのようなお考えをお持ちですか。

大学に来る前に企業及び国の研究所にいたからこそ、教育と研究の違いは常に意識しています。教育(勉強)でやるのは教科書に載っているすでに過去のこと。研究でやるのは教科書に載っていない未来のこと。まだわかっていないことを探すために、わかっていることを勉強するのだということを、研究者を目指す学生にはきちんと理解してほしいと思っています。​
研究を職業にするということは、常に新しいことを考え、考えを先へ先へと進めて行くということです。古いことをきちんと理解できたからといって、新しい発想が得られるわけではありません。理系のいいところは、自分の手で全く新しいものを創り出せるところ。気がついたら誰かがすでにやっていたことを繰り返しやっていたということにならないために、過去の歴史を学ぶことは重要ですが、すでにやられたことを再びやっても良いのは、過去の解釈に誤りがあり、それを正せる場合だけです。とにかく新しいことをすることが重要です。

――先生が研究されているナノサイエンスについて、少しお話を聞かせてください。

ナノサイエンスももはや新しい研究分野とはいえませんが、ノーベル賞を見てもおわかりの通り、最新の研究というのにやはりナノサイエンスは欠かせません。ナノの価値はただサイズが小さいということではなく、小さくなることで材料の性質が変わるところにあります。私の今の研究テーマの金属材料の場合も、連続な金属膜には金属光沢がありますが、これをどんどん小さくして、


100ナノメートルを切るようになると、金属光沢がなくなり、可視の光を吸収するようになります。それを分子と同様に規則的あるいは不規則的に集積化すると、元の固まりであった材料とは全く異なる性質を持つ新規物質(メタマテリアル)になります。​



通常は、ナノ粒子を合成する人は無機化学、表面の修飾分子の合成は有機化学、分子・粒子を並べる人は物理化学、その光特性を調べる人は物理光学(電磁気学)、バイオセンサーなどの応用は生化学・医療分野

と、それぞれ別な研究分野に属します。通常は別々の学会で発表するような研究内容を自在にくっつけてアイデアを出していくわけですが、時には高い専門性を必要とする場合があります。境界領域の研究者には、

専門性の高い研究者どうしを結びつける力があると思います。そして境界領域研究を進めるには、それ専用のトレーニングが必要だと思います。


――広い分野を勉強するというのは大変なことだと思いますが。
まずは1つのことをとことんやる。「これで先が見えた。その気になれば何でもできる」というところまでやりつくして、一度撤退して別のものに取り掛かる。そうやっていくつか知識が貯まってきたところで、それぞれを結びつけたらどうなるか、と考えます。研究は、やはりある程度の深さまでいかないと成果を使いこなせません。私にはやりたいことがたくさんあるので基本的にいつも急いでいますね。ゆっくりやっていると人生が終わってしまうから(笑)。今は手持ちの札もできたし、いろいろな発想を現実にできるので、とてもいい感じです。

途中で専門を変えると研究キャリアとして損をするとか、評価が下がるとか、そういうことを気にしたことはありません。研究だけに限らず、他の仕事でも、同じ方向だけを向いていると、成長のスピードは落ちてくると思います。新しいことに挑戦する時、トップギアで走れるのでとても気持ちがいいです。他人と比べることはありませんが、自分として最大のパフォーマンスをしようと常に思っています。


――企業にいらっしゃったご経験から、企業と大学での研究の違いをどうお考えですか。
企業は「売れるものを作る」ことが基本。お金を稼がなければいけません。いいもの、新しいものだから売れるというわけではないので、まずは社会のニーズを考えます。そして今ある技術や生産ラインや人を活用して、何ができるのかを考えます。社会に貢献しつつ自分たちもどう幸せに生きていくのかを考えるのが企業です。だから、一部ベンチャーを除けば考えた方はコンサバティブになりがちです。

大学の研究は企業ではやれない研究をやるべきで、根本的なところから新しいものを創り出したり、新しいコンセプトを提案することが大事だと思います。そして、それを実用化して社会に送り出してくれるのが民間企業だと思います。


――海外のご経験も豊富ですが、日本と海外の研究の違いについてどう感じていらっしゃいますか。
海外と日本の研究のやり方は随分違います。私は日本にいて違和感を覚えることがよくあって、海外にいた方が落ち着きますね。海外では新しいアイデアは他人と話しながら練っていきますが、日本ではまずは自分一人で考えをまとめて、時には文章にまとめてから人に伝えますよね。本当の意味での意見交換がなかなかできない。
研究に限りませんが、不思議なことに日本の企業はチーム力に優れているし、チームとして何かを成し遂げることを非常に得意としています。学生は企業に就職した途端に別人のように大人になります。日本では、これまで人材教育を企業に任せ切りにしてきた感がありますが、近年日本企業も教育をする余裕がなくなってきているようです。だからこそ大学に教育改革が求められているのでしょう。
今、日本も国をあげてコミュニケーション能力育成について取り組んでいますが、その動向について興味をもって見守っています。批判的意見を受け入れる、意見をしっかりとりかわすといった姿勢を早い段階から教えていくことによって、いろいろな分野が今ある限界を超えてもっと成熟していくのではないでしょうか。

男女共同参画も同じで、男女が会話をしなければ意味がない。男性の発想、女性の発想、外国人の発想をマージさせるのがダイバーシティですから、もっと意見を交換し、多様性を活用する視点でお互いを見る必要があると感じています。


――先生がこれまでに行かれた国で、それぞれに違いはありましたか。
ドイツは単一民族が多い国なので、日本とやり方が似ているように思います。移民が多いアメリカやオーストラリア、シンガポールは、多様性を受け入れる姿勢に長けていますね。特にシンガポールは約半数が移民や一時滞在者で成り立っている国なので、誰がメジャーで誰がマイノリティとかいうことがなく、本当の意味でマルチカルチャーが成り立っています。シンガポールが急速に発展してきているのも、異分野が競争しあいながら新しいものを創り続けているからだと思います。シンガポールは最初の留学地としてとてもいい国です。そこからアメリカなりヨーロッパなりにステップアップしていくのもいいのではないかと思います。


――やはり海外での経験は大事だと思われますか。
もちろんです。九州大学にもいろいろな留学プログラムがあるのだから、どんどんチャレンジしてほしいと思います。1つの国といわず、2つ、3つと試すことで、「いろいろな考え方があるんだ」「型にはまらなくていいんだ」ということを自分で感じ取れるはずです。学生に限らず、若い研究者にもぜひそういう機会を持ってほしいと思います。「ちゃんとやらなきゃいけない」「完璧にできなきゃいけない」という気持ちで外国に行っても、まず完璧にできることなんてありません。文化も言語も違う環境で新しいことをやろうとするのだから、うまくいかなくて当たり前。でも、そこで成長できることは本当にたくさんあります。


――先生は九州大学の副理事としてのお仕事もされていますが、研究との両立は大変ではありませんか。

大学の副理事になってから教育や学生に関わることが多くなり、今まで研究所で研究ばかりだったので、とてもリフレッシュできて、かえって研究もはかどるくらいです。周りからは「大変でしょ?」と言われますが、もともと違うことを2つ同時にやるのが好き

なので、本部の業務と研究のことを一緒に頭の中に入れている方が、発想が豊かになる気がします。

もともと国際会議の主催や学会の仕事をするのも好きで、昨年は日韓の国際会議のストリートパーティを天神の大丸エルガーラで開催しました。福岡市にも協力して頂き、どんな飲み物出そうかとか、どんな催し物をやろうかとか、クリエイティブなことであればなんでも興味があります。

現在の副理事という仕事は、現役の教授がやるところに意義があると思っています。部局の教育・研究現場と大学の本部の間に入り、バランスを見るところに意味があると思っています。




――先生のご研究は、今後どのような形で社会に貢献していくのでしょうか。


実は私の研究を実用化したいというお話をいただいていて、実現すればベンチャー企業に技術顧問として関わることになりますが、ベンチャー支援は基礎研究者としての立場を貫いていては成り立ちませ

ん。例えば、研究の基本的な部分を崩すことなく、低コストでスケールアップした装置を作るには何が必要なのか、そういった知識も必要になってきます。私も長いこと研究を続けてきて、ようやくそれなりの成果を出せるようになってきたので、少しでも社会に還元したいと考えています。
実際のところ女性研究者は企業と共同研究をやりにくい面があります。企業の幹部はほとんどが男性だからです。今回の話も、女性研究者の産学連携の実例として、他の女性研究者の参考になればと思っています。


​――研究、教育に加えて副理事のお仕事や研究の実用化と、本当にマルチなご活躍ぶりですね。
女性は基本的に脳梁の部分が太く、マルチタスクが得意です。子育てをするために自然にそうなっているともいわれていますが、もちろん男性でもマルチな人がいるし、女性でも一本気な人もいます。過去においては男性的な脳型の女性が研究者になることが多かったのかもしれませんが、今後女性研究者が増えてくると、違うタイプの研究者が出現するだろうし、それを見て男性の研究者も違うやり方を目指すようになるかもしれないと思っています。


【インタビューを終えて】
「予想外のことが起きないか」、「同じ方向だけを向いていると成長のスピードが落ちてくる」、「型にははまらなくていいんだ」、「もともと違うことを2つ同時にやることが好きなので」・・・・・無駄や気負いがなくサクサクとお話ししてくださった玉田先生の言葉には、研究と向き合っていく上でのいくつものヒントと若手研究者や女性研究者へのさりげない思いやりが散りばめられていていました。長時間に及ぶインタビューとなりましたが、楽しい時間を過ごさせて頂き誠に有難うございました。

(聞き手 男女共同参画推進室 武内真美子)