インタビュー / エッセイ

2017-12-04

ダイバーシティニュース連載企画「九州大学で活躍する女性研究者」(第3回)
笹木 圭子(専門:環境材料学、ジオミメティクス)
(日時:2017年10月4日(水)午前 場所:九州大学ウエスト2号館)

 男女共同参画推進室では、3か月ごとに発行しているダイバーシティニュースの企画として九州大学で活躍している女性研究者を紹介するインタビューの連載を行っています。
 第3回は、鉱物資源に乏しい日本において資源を有効活用するため、生体鉱物・人工鉱物などを利用し希少元素の回収などの技術に関する研究を行われている笹木圭子先生です。研究についてや、海外経験のお話を伺いました。ダイバーシティニュースでは概要のみをご紹介しておりますが、ここでは全体のインタビューを掲載します。




――まずは先生が所属されている資源処理・環境修復工学研究室について教えてください。

 地球システム工学コースは1学年35名、研究室の数は7つという工学部の中でも小さな所帯です。その7つもかなり分野が広範囲に広がっていて、外部からはつかみにくいところがあるかもしれません。

 そもそも九州大学が始まった当初から前身である「採鉱学科」は存在し、当時の産業を支えた炭鉱の技術指導者を養成するために開学したと聞いております。石炭だけではなくて、銅などの金属資源を取り出す探査や地質調査から始まって、採掘、精製、そして精錬につなげるまでの工程が、この資源工学分野がカバーする範囲となります。

 私が所属する研究室は資源処理・環境修復工学研究室という名称ですが、環境修復工学という名前がついたのは私が九州大学に着任した2004年からです。資源処理工学は、鉱物や石炭の精製プロセス、つまり必要な部分と不要な部分を分ける物​理的あるいは化学的選別法による精製プロセスにおける工学を指し、一方の環境修復工学は、工程の中で生じる有害物を濃縮分離あるいは無害化する新しいプロセスや材料を研究する分野です。国内では資源・素材学会を中心に活動していますが、​学会全体のアクティビティを見ても環境修復の部分が非常に大きく発展しています。



――その研究室で先生はどのようなご研究をされているのでしょうか。


 私の研究は、地下資源開発で遭遇する水圏環境の有害な物質や希少元素を濃

する材料やプロセスを、供給性の高い鉱物、あるいは生体鉱物、人工鉱物に
最低限の手を加えることによって材料やプロセスの効率を上げることや、新規
の機能を付与することです。例を挙げると、大分県にある地熱発電所から毎日
湧出する地熱水には海水の50倍を超える濃度のリチウムイオンが含まれており、
これを選択的に吸着する吸着剤を、カビの菌糸をテンプレートとして合成する
と化学的に合成したものよりも吸着容量が高いものができます。また、地殻を
構成する成分は圧倒的にケイ酸塩が多いですが、自然界の多くのpHではケイ酸
塩鉱物の表面電位はほとんど負に帯電しています。したがってその間隙水中で
は陽イオンはケイ酸塩鉱物に吸着しやすく、陰イオンは動的に振舞います。また陰イオンには、ヒ酸、クロム酸、セレン酸など微量でも有害なものが多く、とくに陰イオン放射性核種は、陽イオン放射性核種とは桁違いに半減期が長いものが多く、濃度は低くともほぼ半永久的に放射能を保持する脅威を放っています。このような背景から、とくに陰イオンの吸着剤の開発や不溶化反応に力を入れています。例としては、コンクリートの強化材として機能することが実証済みであるフライアッシュ(石炭飛灰)には、溶出する恐れのある有害イオンが多種多様に含まれていますが、これらの徐放を抑制する機構を研究しています。


――ところで、カナダへはどのようなきっかけで行かれたのですか?

 日本学術振興会の特定国派遣研究者事業によりカナダに派遣されていました。
カナダは資源国で、自然環境を守る意識も非常に高い国で、鉱業活動による地
下水汚染を防止する技術となった透過型浄化壁は北米で開発され発達した技術
です。地図には出ていないウオータールーの場所も知らずに、その研究の発祥
の地であるウオータールー大学を行き先に選んでいました。すでに大学の教職
に就いていましたので、在外研究の期間は会議も講義もなく、研究に集中でき
る至福を味わいました。半年間の仕事をもとにふたつの論文を書くことができ
​ました。派遣先は30名くらいの研究グループで、室内実験、数値モデリング、フィールドワークを横断的に進める研究スタイルをとっていました。ナノ領域の反応を最終的には数十メートルの実規模に適用するとか、数十日の実験から数十年の予測をシミュレーションするものがあり、ナノジオサイエンスとフィールドサイエンスの間の相互フィードバックができるのは、地球科学ならではの醍醐味であると強い感銘を受けました。


――これまでの研究の中で、女性だから有利だったとか逆に大変だったというご経験はありますか?


 確かに日本の大学、とくに理工系では女性教員の数はとても少ないと思いま
す。私は九州大学に着任してから、大学運営、教育、学外活動とバランスをと
りながら研究を行っていますが、科研の個人研究種目の獲得では、とくに女性
だから大変というのも、女性だから有利というのも全くなかったと思います。
ただ、組織的研究種目となると、まだあまり経験はありありませんが、代表に
は実績に裏づけのあるかなり強いリーダーシップが要求されることは確かです。
女性研究者からもそのようなロールモデルが出てきつつあると思いますが、女性ならではのご苦労があるのかどうか、わたしもうかがってみたいところです。学術には、時代が変わってもけっして揺るがない基盤がある一方で、研究にはファッションの側面があります。研究という活動は、個人研究であったとしても、たえず人との交流を伴い、新しい発想には、敏感な感受性も、臨機応変な柔軟性も必要です。そう考えると、組織的研究のなかでも女性が活躍できる場面はかなりありそうにみえます。あまり公表されていないようですが、日本の男子学生の学力が低下しているというショッキングな文部科学省の統計結果があります。原因はまだ明らかに分析されていませんが、日本の社会、経済、文化的な背景が影響しているように思えます。女性の総数を増やすことがこれからの学術の発展においてもキーポイントとなることを、現状大学構成員の大多数を占める男性にもご理解いただければと思います。


――教育・研究活動に加え、国内の様々な事業などでご多忙の中、どのように時間をマネジメントされていますか?

普段は朝5時ごろから自宅で2時間ほど仕事をします。海外からのメールや夜型の学生からの報告を確認し、その日のスケジュールと重要な連絡事項の確認をします。日中は会議、講義、来客で毎日人の出入りがあり、なかなかまとまった時間は作れないので、朝の時間は貴重です。夜は疲れていて間違いが起きやすいこともあって、比較的単純な仕事に当てます。出張も多いので、学生同士でも物事が進められるように学生間のコミュニティをしっかり形成しておくのも大事な仕事だと思っています。


――先生の研究室は留学生もいらっしゃるのですか?

研究室構成員総数は2017年11月現在34名、うち日本人学生15名、留学生8名、外国人ポスドク5名となっています。留学生を対象とした奨学金獲得機会が増えるのに伴い、今後も留学生の数は増える傾向にあると思います。留学生の大部分は博士後期課程からの編入学者ですが、修士課程から入る留学生も奨学金の整備によって少しずつ増えています。当専攻では修士課程の講義は原則英語で行うことになっていますが、教育歴の異なる学生をひとつの教室で授業するには難しい点が少しずつ明らかになってきています。国にもよりますが、おおむね専門力では日本人学生のほうが優れ、英語力では留学生が優れている傾向があります。一般的には基礎を母国語の持つ概念で習得してから、研究のために留学するほうがうまくいくと考えられてきましたが、留学年齢の急速な低下は、分野によっては大変な困難を伴うように思います。もちろんなかには、留学年齢の低下により早く日本語になじみ、日本語の概念で学ぼうとする留学生も出現しています。
​ 留学生と日本人学生の大学に求めるものはまだ差異がある背景から、学生の一体感を作るのも難しい部分がありますが、7-8年前と比べると、ずっと混ざり合っている感じを受けます。これは明らかに国際化が進んだ結果だと思います。それと同時に、日本人、留学生それぞれの将来を見通しながら、学術の果たす役割を考えると、大学の国際化は非常に重い課題です。日本の将来のための学術と国際協調のための学術が余裕無くひとつ所に押し込められているような日本の大学の現状を、将来それぞれの学生が社会を牽引するようになったとき、どのように振り返るのか興味があります。


――本年度5月現在、工学部生の女性比率は9.3%、博士課程学生は17.7%、教員は6.4%となっています。工学系で活躍する女性がもっと増えるために、どのような取組が必要と思われますか?

 数年前までは、よく高校に出前講義に行っていました。理工系の大学を目指す高校生が教室に集まるのですが、ほぼ間違いなく女子は少数派です。私たちが高校生だった頃もそうですが、女子高生が物理という科目を好まない傾向があって、進路を選ぶ際に女子は文系に進むことがあたりまえのような風潮があります。いろいろなものを吸収する年頃の高校時代に、わかりにくいものを敬遠するというのはもったいないことだと思います。難しいもの、わかりにくいものこそ、向き合おうとする努力を惜しまない姿勢が大事だと思います。そういうわたしも物理の電磁気学はよくわからなくて、苦しみながらも勉強していたのを覚えています(笑)。古典というのもわかりにくいものですが、奥深いものです。わからないからこそ、考えた末いろんなことを想像させます。高校生にとって、将来の職業観をはっきりもって工学系に進学する人は男女ともに少ないと思います。女子が学部生で10%弱という数字は、工学系は男子の行くところという間違ったイメージによる影響がかなりありそうです。実際に学年で女子は一人という年もあり、そういう場合は決まってしっかりした優秀な女子です。工学は実学なので、就職も良好ですし、実社会により近い雰囲気がありますので、もっと増えても良いと思っています。博士課程で17%強という数字は、かなり女子留学生の数が貢献している結果と思われます。子供を育てながら、研究している留学生も珍しくありません。日本人に限るとかなり小さくなりそうですが、それが教員では6%程度という数字につながっていると思います。大きな国際学会へ行くと、小さな子供を連れて学会参加している若い女性も珍しくありません。ダイバーシティの時代を迎え、いろいろなキャリアをもつ人が大学の教壇に立つようになってきています。従来の常識を超える視点で人材発掘することが有能な女性教員を増やすことにもつながるのではないでしょうか。


――最後に若手の研究者に向けたアドバイスやメッセージをお願いしたいのですが?

 研究者のステージとして、若い時期に出会う人や経験はとても大事で、それが将来に大きな影響を与えます。伸びるためには、強い好奇心と素直さ、純粋さが必要だと思います。研究は誰も気づいていなかった真実を明らかにしていくものですが、学会などでそんな発表を目の当たりにすると感動すら覚えることがあります。そういう研究の側面は、芸術(アート)にも似ていると思います。誰もやっていないこと、新しい真実を発見し、人を感動させる。新しくても、世の中に受け入れられないものであっては芸術として成り立ちません。創造性を極度に追求する世界であっても高い常識が求められます。研究活動はそれと似ていて、高い基礎力に支えられた発見だからこそ、受け入れられ称賛されるものだと思います。自分が必要と気がついたら、「基礎を勉強するのに遅すぎるということはない」ことも強調しておきたいと思います。



【インタビューを終えて】

 ナノサイズの反応を数十メートル規模にまで適応するなど、資源工学ならではのスケールの大きい研究のお話が伺えました。難しいもの、わかりにくいものにあえて向き合うという姿勢は、高校生だけでなく、我々にも必要なことだと感じています。長時間にも関わらず、終始和やかな雰囲気でお話を聞かせていただきました。誠にありがとうございました。


(聞き手 男女共同参画推進室 春藤ゆう)